■「第59次県教育研究集会」の報告 |
開催日 |
2008年11月1日~2日 |
会 場 |
鹿児島市・開陽高校 |
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11月1日~2日、第59次県教育研究集会を、鹿児島市・開陽高校で開催しました。県・高から約500名が参加し、2日間にわたって教科・問題別の分科会で授業実践の交流などを行いました。
開会行事では、主催者、来賓等のあいさつ、基調報告に続いて、恒例のアトラクションが行われ、今年度は新生・南薩支部により「学校って何?」が演じられました。その後、1日目の午後から2日目の午前中は分科会が行われ、2日目の午後からは、福田誠治さん(都留文科大学教授)に「今、『学力問題』を問う、国際的な視点から」と題してのご講演いただきました。
福田さんは、まずPISA(OECDの生徒学力調査)の内容を検証され、この調査がどういった学力観を求めたものであるのか、日本の学びの弱点がどこにあるのかなどを明快に示されるとともに、イギリス、フィンランドで行われている教育を紹介しながら、「競争システムは失敗する」「底上げが学力向上の定石」「平等と高い学力とが結びつく」といったことに言及されました。
閉会行事では、全国教研の正会員が紹介され、大きな激励の拍手が送られました。
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県教研・主催者代表あいさつ(鹿教組・佐土原委員長) |
第59次教育研究集会に県下各地から参加の正会員をはじめ傍聴者の皆さん、また、日ごろから教研活動にご指導をいただいています共同研究者並びに関係者のみなさん、ご多忙中にも関わらず私どもの集会にご出席いただいたご来賓の皆様、この教研の準備にご協力をいただいた開陽高校の学校関係者、分会の皆さまの厚意に満ちた計らいと、運営を担っていただきます両教組鹿児島支部のみなさんに心からお礼を申し上げたいと思います。ありがとうございます。そして、この後行われるアトラクションに1年間とり組んでいただいた南薩支部のみなさんに感謝申し上げると共に、その成果を拝見させていただくのをわくわくしながら楽しみにしていることも冒頭申し上げておきたいと思います。
さて、はじめに、この1年間に私たちにかけられた理不尽な攻撃について述べたいと思います。昨年、この教研で正会員となられ、意気揚々と全国教研に行かれた方々は品川プリンスホテルの理不尽な対応のため、全国教研史上初の全体集会中止という事件に見舞われてしまいました。会場使用拒否は憲法で保障している「集会・結社・表現」の自由に抵触するものであり許すことはできません。日教組も裁判闘争を組織し、全国教研参加者のみなさんにも原告団となっていただきました。今書面でお互いの主張を述べあう段階ですが、この種の裁判は長引くことが予想されます。今後も原告のみなさんと共にねばり強くわれわれの主張をしていきたいと考えています。総選挙を前にして、近頃われわれに対する誹謗中傷発言が相次いでいます。中山前国土交通大臣による暴言の数々、そして、森元首相の悲惨な事件が相次ぐのは日教組が悪いという発言、また、それを擁護する塩谷文部科学大臣、橋下大阪府知事の発言など口にするだけでも腹立たしい思いであります。政治家の事務諸費問題、年金の改竄問題や1年で政権を放り出す無責任な総理たち、規制緩和の中でもうければ何をしてもよいという経済界、戦後政治における自分たちの責任や道徳性を棚に上げて、われわれに責任を押しつけることは、本末転倒であります。そんな非難をするよりも、GDPに占める教育予算の割合が、OECD加盟諸国の中で最低の数値になっていることを反省し、教育諸条件の整備、教育環境の向上を考えるべきです。日教組結成以来私たちは、子どもたちの側に立ち、民主的な子どもたちを育てるために行動してきました。一連の発言に腹立たしい思いでいっぱいでしょうが、ここは冷静にわれわれはきちんとした抗議をしながらも、子ども保護者とのつながり・絆を強くしていこうではありませんか。それが、彼らにはいちばんこたえるはずですから。
次に、本教研の意義と課題について2つ述べてみたいと思います。一つは08年3月に告示された戦後最悪の詰め込み型の学習指導要領が一部前倒しで実施されるなかで、あくまでも子どもの側にたった教育実践を押しすすめるために本集会はどのようにこたえるかということであります。
新自由主義・市場原理主義を掲げて、小泉構造改革、安倍教育改革はあらゆる規制緩和や民営化を断行し、経済格差・教育格差を増大させてきました。
子どもたちは豊かな自然を奪われ、地域の労働生産に息づいた社会環境を奪われ、遊びとゆとりによる子ども同士のぶつかり合いもできず、幼い時期から競争原理による偏った知識獲得競争を強いられて、人間として円満な成長を著しく阻害されています。文部科学省や厚生労働省の調査、あるいはユニセフが行った国際比較でも、日本の中学生(15歳)の約30%もが精神的な「うつ傾向」にあることが明らかになっています。1998年6月に「このままの競争主義的教育制度では日本の子どもたちの心身に障害を引き起こしかねない」という主旨の勧告も受けています。子どもたちはすでに悲鳴を上げているのです。
青少年の非行や暴力自殺などの責任はすべて大人の側にあります。特に教育労働者の具体的教育実践の責任は重大であります。学校が生活空間として安心できて、自分の居場所があって大事にしてくれるという、何か、そういう思いが耕していけるようにしていけば、学ぶ意欲もわいてくるのではないでしょうか。私たちは社会的、制度的貧困さの改善を要求しながら、子どもの側にたった、子どもと共に生きることをここで再確認し日常的実践を重ねていくことがきわめて重要です。
2つめは、教職員集団の形成であります。評価制度の導入、全国学力テストの実施、47教育基本法・教育三法の改悪により、教員免許更新制をはじめとする差別分断攻撃が押し寄せてきています。2000年以降の教育改革は教育界内部からの改革ではなく、外からの、政治・経済的発想や要求に従って変えられたものばかりです。
いじめ、不登校、進路指導、学力向上から校内緑化にいたるまで、何にでも数値目標を掲げて競争させられます。それらの「成果」は数字がすべて。企業の論理と手法がそのまま導入され、教育界に蔓延しているのです。全国学力テストにおいては田植え方式で間違いを教えたり、昨年度の問題をそのままコピーしてさせたりする校長・教職員が出てきています。
学校に希望を持って教職員になった新採の先生たちがやめていく現状があります。病気休職者の6割が精神疾患で占められています。定年を待たずやめていく若年退職が増えています。
教員免許更新制にいたっては、なぜ教員免許だけが更新しなければならないのかという明確な根拠もないまま導入され、今年度予備講習が始まりました。鹿教組の採ったアンケートには、未組織者を含めて、今までにない数の回答が寄せられています。ほとんどが導入に対する不満と疑問です。講習にかかった費用も5万円以上という人や221名から集約したアンケート調査で受講しようとしたが受けられなかった人が3割(68名)もいます。根拠もない条件整備も整っていない制度は凍結し先送りするしかないと思います。
これらのことに対する警鐘も鳴らされています。ノーベル化学賞を受ける下村脩さんのことば「子どもたちにはどんどん興味をもったことをやらせてあげて。やめさせたらだめです」ノーベル物理学賞の益川敏英さん「本来みんなが持っている好奇心が選択式テストの受験体制ですさんでいる」「今の親は教育熱心というより教育結果熱心」反貧困の活動をしている湯浅誠さん「世の中に必要なのは溜をつくることだ」
私たちをとりまく環境は厳しいものがありますが、新自由主義・市場原理主義の間違いが露見し、今の経済状況は市場モンスターの恐怖におびえている状況です。教育における学校選択制のひずみも現れ、群馬県の前橋市は廃止を決め、江東区も見直しを決めています。行き過ぎた市場原理主義・規制緩和が見直されつつあります。今後の私たちのとり組みが非常に重要になってきます。
みなさんには教育現場での核になっていただき、同じ考えを持つ仲間を集めて、希薄化している教師集団のつながりの構築をしていただきたい。そして、詰め込み型教育ではなく、批判的思考力・洞察力生きる力を身に付ける教育、子どもたちを学ぶ主体としてとらえる実践をしていただきたいと思います。私たちは、現場である学校を活動の主眼と考え、常に子どもの側に立ち、子どもの背景にあるものを見据えながら、子どもたちの真の学力を伸ばすために活動を続け、今日もその現場からの実践を持ち寄って、研修をしようとしています。この県教研はただの発表の場ではなく、自分の実践の批判検討をしていただき、それをもって学校現場に帰っていただく場であります。2日間の真摯な議論の積み重ねが、教職員全体のものに広がり、教研活動が前進することを願ってあいさつとします。
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