はじめに
2008年3月に告示された新学習指導要領は、昨年4月から小学校、そして今年4月からは中学校で完全実施となりました。また高等学校でも理科、数学だけは先行実施ということでスタートしました。
鹿教組としては、これまでも新学習指導要領の移行期間に伴う学校現場の諸問題について、実態調査を行い、県教委交渉や日教組の文科省の交渉に役立ててきました。
今年度も9月から10月にかけて各学校の実態調査を行いました。その調査結果をまとめたものをお届けいたします。
今後さらに詳しく分析していき、県教委交渉などに役立てていきたいと思いますが、この教育研究集会の分科会等でも意見交換の材料としたり、今後いろいろな場で活用したりしていただけたらと考えます。
実態調査から見えるもの
小学校においては、前年度からの実施ということもあり、大きな違いはないものの、指導内容の多さやミスマッチ(小学校2年の算数「時間と時刻」「長さ」など)から理解が厳しいということ、授業時数の増加で2年生は、6校時授業が週2回入ってきたという実態もでてきました。また授業時数確保のために学校行事等の時数が制限され、準備や後片付けの時間がなく、17時過ぎまで校内で後片付けが行われていたという実態もあります。また、複式学級においては、二学年分の教材研究は厳しいなど時間的なゆとりが全くない状況も出てきています。さらに授業時間確保のためか、予備時数が増え、1年生では50時間を超える学校が、全体の82%もあり、中には100時間を超える学校がいくつもありました。もちろん、例年通りインフルエンザの流行による学校・学級閉鎖や台風襲来による臨時休校などへの対応策でもありますが、過度な反応のように思われます。いくつかの学校に聞いたところ、「昨年度のまま週時数を組んで計算したら、それぐらいになっていた」などの回答があり、教育課程編成時に議論ができていない実態もありました。そういった中にも、小学校382校、中学校107校で50時間内の予備時数で対応できています。予備時数を増やすことで「丁寧な指導ができるようになる」のか「子どもたちと向き合う余裕を奪ってしまうのか」検討しなければなりません。アンケートの記述から「教える内容が多く、授業時数が不足気味である」という回答もあり、その解決策は授業時数の増加となりがちですが、果たしてその解決策でよいのかも含め、校内論議を十分にする必要があります。
中学校においては、「教科時数が増え、行事のやりくりが非常に難しくなった」という意見が聞かれる反面、「今のところそういう話はありません。2~3年前から対応できるようにそれぞれ準備等ができていたのかもしれません」という意見が寄せられるなど、小学校の完全実施の時よりは驚きや戸惑いは少ないように感じます。
昨年度より授業時数が増加した学校は87.4%もあり、英語の時数増加に対応するためのものと考えられます。「中間テストを1日で行っていたが、今年は2日に分け、午後も授業というように授業時数の確保に苦労している」という定期試験の日の午後からの授業や「月曜日の5時間授業をなくし夏休みに研修を行っている」など月曜日の6校時の設定などで授業時数の増加に対応しているようで、予備時数の増加も全体は22.9%と小学校と比べて穏やかに感じます。ただ、1年目を終えて、「もう少し予備時数の確保が必要」などという状況が出てくることも考えられます。「授業時数確保のためにテスト終了後・始業式・終業式のあとに授業があり教師も生徒も余裕がない」「授業時数が増えたことで、今年度は予備時数を極力減らして対応したが、来年度は厳しいと思う。5日間の6時間でぎりぎりいっぱいの教科の時数だと、子どもの楽しみはほとんどなくなり、塾のような学校になってしまうと思う」というように多忙化による余裕のない実態もあります。教育課程の編成期には、単なる時数合わせのためだけではなく、子どもや教職員の状況など学校の実態からスタートした論議が必要だと思います。
総合的な学習については、記述の中で「せっかくこれまで築いてきたすばらしい活動、全校生徒でとりくんできたものが縮小、カットされた」(中学校)「課題解決的な活動になりえず、子どもにも教師にも魅力ある時間となり得ていない」「教師の創造的なとり組みができなくなった」(小学校)など、「総合的な学習の時間」の時数の減少とそれに伴う実践の希薄化が危惧されます。実際、県教研へのレポート数も減ってきています。これまで子どもたちの自主的な活動を引き出し、人権・平和・環境・共生などの実践を生み出してきた総合的な学習の時間を、時数が削られるという物理的に厳しい状況の中で、「何ができるのか」「どうすることが必要なのか」意図的に実践を再構築していかなければなりません。
次に授業時数の増加に伴い、今年度『宿泊学習を夏休みに実施』という実態がありました。鹿教組と県教委は新学習指導要領の「総則」に関して、「各教科活動や学習活動の特質に応じ効果的な場合は、長期休業中においても、例えば、職場体験学習、集団宿泊学習、修学旅行等のまとまった日数を必要とする学習、自然現象に伴う授業や季節的な制約を受ける授業等の長期休業中に実施した方が効果的な学習など」と確認していました。和泊町では、そういった確認を無視し、町教委が強行に計画を進めさせました。「長期休業中に実施した方が・・」ということも言っていましたが、結果的には台風通過によって二泊三日を一泊二日に変更したり、施設が停電で計画を変更したりして実施となり、効果的ではありませんでした。地区協でも「意味のない宿泊学習」と総括が行われていました。今後こういったことがないように各分会、地区協、支部といった各段階で来年度の教育課程編成において、交渉と学校現場での論議を重ねていく必要があります。
教育予算確保の問題でも、「新しい教科書に対応する教材や備品がそろっていない」「国語の赤本やCDなど買ってもらえない」そして、中学校では「武道にかかる用具の課題」などもあげられていました。文科省は、2012年度から「義務教育諸学校における新たな教材整備計画」に基づき地方交付税措置を行っていますが、各市町村において予算措置がなされず、他へ流用されている状況もあるので、再度それぞれの各地区協で確認していかなければなりません。
今回は、全体でも小学校で40.4%、中学校でも38%と集約状況がよくありませんでした。「前にもやったじゃないか」とか「これまでと変わらない」「はじまってしまったから」など意識の希薄化や「忙しくてそれどころではない」という状況の現れなのかもしれません。この調査によって、新学習指導要領が実際に運用され、「どういった問題点があるのか」「どういった実践が必要なのか」など分析や討議資料として大切な役割を果たしていくものです。また、県教委や事務所、市町村教育委員会そして学校での交渉に、現場の声を届ける材料にもなります。
今後も、自分たちの職場状況をふり返る機会、客観的なデータを得るために、こうした調査を続けていきたいと考えています。
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