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2006年4月19日
日本教職員組合
中央執行委員長 森 越 康 雄
 自民・公明両党は、焦点となっている教育基本法「改正」における「愛国心」の表現について次のように合意し、今次国会における法案成立を目論んでいる。
 第2条(教育の目標)「伝統と文化を尊重し、それらをはぐくんできたわが国と郷土を愛するとともに、他国を尊重し、国際社会の平和と発展に寄与する態度を養うこと」

 自民党内には、「これでは生ぬるい」との不満がくすぶっている。しかし、いかにことばを飾り立て工夫しようが、「国への愛」を強要することこそが、改正論者の狙いである。中国のデモ行進のプラカードにあった「愛国無罪」は、いずれの国でも、まさに「愛国」のためなら何をしても許されるという、偏狭なナショナリズムの本質を端的に表現したものである。
 
 59年前わが国が、教育基本法前文で「われらは個人の尊厳を重んじ、真理と平和を希求する人間の育成を期する」と高らかに謳いあげたのは、あの悲惨な戦争で犠牲にされた多くの人々への鎮魂であり、再び戦争を繰り返してはならないとする魂の叫びであった。そして第10条「教育は、不当な支配に服することなく」とは、まさに権力による教育支配を許さないとする決意なのである。

 「愛国心」を教育の根源に据えたがるそのわけは、「国のために死ねる人間を育てることだ」と本音を吐露した国会議員がいた。しかし彼は、私利私欲に走り法に触れ逮捕されながらも、選良を辞する見識さえ持ち合わせていない。国民に国を愛することを説教するよりも、国民から愛される国づくりに邁進することこそ、政治家の責務である。

 あれほど政府答弁で強制しないことを約束したにもかかわらず、いったん法制化されるや「国旗・国歌法」は「日の丸・君が代」強制に使われた。その実施状況を教育行政は徹底的に調べ上げ、いささかでも意に沿わない学校へは「指導」を加えた。管理職を締め上げ、教職員は処分で脅し、そのことによって子どもたちにも圧力を加える、まさに権力による弱者いじめである。

 「国を愛する」ことが明文化されたならば、今後は各学校における教育課程に「愛国心」がどのように位置づけられ実践されているのかの点検が始まるであろう。「愛国心」教材が幅を利かせ、子どもたちは「愛国心」を評価され、従順であることを求められ、やがて非国民・売国奴・国賊呼ばわりが日常化し、「権力に無批判な国民」づくりへと直結することは、歴史が証明している。

 私たちは、「教育基本法を読み、生かす」運動を展開してきた。それは私たち自身が、民主的で真理と平和を求め、子どもの尊厳を重んじてきたかを、鋭く問い返されるとりくみでもあった。しかし私たちは、世界に誇れる日本国憲法と、そしてその申し子である教育基本法こそが、子どもたちの幸せを実現し、世界の平和を築く礎であると、ますます確信するにいたった。

 勝ち残るための競い合いは年々激しさを増し、戦いに疲れ敗れた人たちの怨嗟の声が巷にあふれている。荒んだ心は惨たらしい犯罪を引き起こし、とりわけ力の弱い子どもたちに襲いかかる。人間は一人では生きられない。だからこそお互いを認め合い、とりわけ弱い立場の人を思いやることは、弱肉強食の争いごとや殺戮を繰り返さないために、人類が編み出した知恵であった。

 私たちは声を大にして訴える。「これ以上子どもたちを追い込むな!」「強者の論理を押し付けるのは止めろ!」「国粋化ではなく、国際化を!」そして、提起する。教育基本法がこの国の教育の基盤であるとするならばなおさらのこと、国の将来を見誤らないために、拙速に走らず国会での十分な議論の場を保障し、丁寧に広く国民に論議を巻き起こすことを。


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