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連合・税制改革シンポにおける森永卓郎さんの講演から
    「増税なき財政再建は可能」 小泉内閣の路線を痛烈批判

「財政再建」の名のもとに増税や負担増を国民に押しつける小泉内閣。連合(高木剛会長)主催の「税制改革シンポジウム」(1月17日)の基調講演で、経済アナリストの森永卓郎さんは「増税なき財政再建は可能だ」と庶民増税路線を痛烈に批判した。発言要旨は次のとおり(文責・社会新報編集部)。

いま政府が増税、社会保険料などのアップという形で、どんどん国民に負担増を押しつけている。この背景は一体、何なのか。今から3年前、2003年1月の通常国会の施政方針演説で、小泉首相はデフレ対策として、歳入、歳出、規制、金融の4つの構造改革の必要性を強調し、今年の3月までに改革を断行してデフレを脱却すると明言した。

デフレ促進の政策

 ところが普通に考えれば、この4つの構造改革はデフレ脱却どころか、逆にひどくする政策でもあるのだ。歳入改革について言えば、財政再建のために国民負担を増やさざるを得ないとした小泉首相の発言のとおり、実際に国民負担はどんどん増えている。増税だけを取り上げても、03年5月にワインと発砲酒、7月はたばこ、04年から配偶者特別控除の廃止、05年は老年者控除の廃止、公的年金等控除の縮小、今年からは定率減税の半減、さらに「第3のビール」が5月から増税、7月からは再びたばこ税が上がるといった具合に、しかもほとんどが一般庶民を対象にした増税メニューだ。給料が増えない中で、税金・社会保険料を上げたら手取りが減り、その結果、消費が落ち、さらに需要が減ってデフレがひどくなるのである。
 2つ目の歳出改革は「歳出のカット」で、一番大きいのは公共事業関連費。GDPで見ると地方も含めてこの4年間で34%も減っている。これも需要が減ったわけだからデフレがひどくなるのは当たり前だ。
 3つ目の規制改革。全部が全部悪いわけではないが、規制を緩和して何が起こるかというと、典型的な例は大阪のようにタクシーの需給調整を廃止したら運賃の値下げ競争が起こって運転手の生活がボロボロになる。酒屋の出店の規制緩和でどこでもお酒が買えるようになったが、これも値下げ競争でデフレの要因となっている。
 最後の金融改革は「不良債権処理の断行」と聞こえはいいが、実際にしたことは、地に足の着かない投資をした結果、不良債権になった企業というよりも、デフレで持っている不動産の担保価値が下がって不良債権になった企業をどんどんつぶし、社員をリストラし、資産を二束三文で叩き売ったというのが本質で、これもデフレ要因だ。

「清算主義」の経済

 なぜ小泉首相は一見デフレを促進するような政策を4つ並べて、これぞデフレ対策と言ったのか。実はここが小泉内閣の肝になっているところ。デフレは基本的に供給過剰、あるいは需要不足が要因だが、これを止める方法は2つ。1つは需要を増やしてバランスをとる方法。日本では小渕首相時代までがこれで、公共事業を増やし減税を行なって需要を増やそうとした。
 しかし小泉首相は逆に供給の方を減らしてバランスをとろうとした。その際、弱い企業、生産性の低い企業、過剰債務を抱えた企業はマーケットから出て行ってくださいとばかりの政策を用い、どんどんつぶしていった。その結果、いわゆる「強い企業」ばかりが市場に残り、デフレ脱却とともに国際競争力を回復するというのが基本的な考え方である。これは経済学で「清算主義」というもので、戦前の大恐慌時代に日本を含めて世界各国で採用された考え方だが、すべて失敗に終わった。相当に長期間、しかも相当大きな経済的疲弊は免れなかったからである。
 小泉内閣の経済政策を指揮する竹中平蔵大臣は、それを百も承知でその政策をやってきた。彼らの思想背景に、アメリカ型の「弱肉強食社会」というものに日本を短期間で急速に移すということがあったのではないかと思う。国民全体の豊かさよりも自分だけが金持ちに、自分だけが幸せになればいいというもので、今の小泉内閣はこの考え方に支えられているような気がしている。

庶民に増税強いる

 デフレが深刻化すると所得格差が広がると同時に、失業などが増えて労働者の立場が弱くなる。日本でも明確に法律や制度が変わったわけでもないのに、事実上の首切りや賃下げがどんどん行なわれるようになっている。そして非正社員比率も99年の28%から03年は35%にたった4年間で7ポイントも増えた。しかもその8割が給料20万円に届いていない。
 こうして追い詰めていった一般労働者に対して、増税を課すというような今回の政府予算案は実にひどい。そもそも政府の財政再建の目標は2012年に基礎的財政収支(プライマリーバランス)を黒字にするということ、毎年2兆3000億円ずつ改善すればこの目標は達成できるわけだが、政府は今回、4兆7000億円も財政収支を改善する予算案を提出した。増税しなくても景気が回復すれば、「増税なき財政再建」は十分に達成できるのである。にもかかわらず、2兆円規模の増税、しかもそのほとんどが庶民増税である。99年に定率減税が導入された時、法人税の最高税率の引き下げとセットだった。定率減税は全廃するが、法人税の減税はまったく手をつけていない。金融資産課税については議論さえ起っていない。

金融資産課税こそ

 いまの日本は明らかに不公平感がある。あの「ホリエモン」(ライブドアの堀江貴文前社長)は昨年、自社株売却で140億円余りを得た。いくら税金を払ったか明らかではないが、今の税制で言うと、どんなに多く払っていても税率は10%だ。一般庶民は汗水たらして働いた給料から税金や社会保険料など2割、3割払っている。それなのに人の金を右から左に移し換えるだけで儲ける人はまったく税金がかからないというのが今の日本の税体系の実態だ。
 しかも国民は財政再建が厳しいという財務省の戦略にすっかりだまされている。多くの人たちが消費税率の引き上げはやむを得ないと思っている。確かに財政赤字は795兆円あるが、日本は先進国の中ではぶっちぎりの金融資産大国でもある。政府が持っている金融資産を考慮すると、今の日本の借金のGDP比は欧州各国より少し高い程度でほとんど深刻な水準というわけではないと思っている。
 私がずっと言い続けているのが金融資産課税だ。たとえば1500万円以上の金融資産を持っている世帯に課税すると、課税ベースは約1000兆円。仮に2%課税するだけで20兆円の税収が新たに増えるということ。これは今回の予算案で見てもプライマリーバランスを黒字化してしまうような増収にある。消費税増税なんかまったく必要ない。しかもこの金融資産課税は国民の7割はまったく税金を払わなくても済む。言い換えれば大金を持っている人は限られているのである。
 日本の課税最低限はすでに先進国の中でも低い方なのである。こうして見ると日本は世界で一番、低所得者に厳しい、しかも世界で一番、高額所得者に優しい税制をすでに取っているのである。一般庶民だけを対象にした課税を繰り返すと、この国自体が引っ繰り返ってしまう。


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